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仙台地方裁判所 昭和62年(ワ)1342号 判決 1989年9月25日

原告

上白土清美

被告

丹呉保夫

ほか二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の申立及び主張

(請求の趣旨)

一  被告らは原告に対し連帯して一一三三万七五七八円及びこれに対する昭和六一年三月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言

(請求の原因)

一  事故の発生

1 日時 昭和六一年三月二〇日 午後九時三〇分頃

2 場所 宮城県柴田郡川崎町大字今宿字山岸地内国道二八六号線

3 加害車 被告丹呉保夫(以下「被告丹呉」という。)運転の普通乗用自動車(車名トヨタコルサ、宮五七 ラ―六六八七)

4 被害車 原告運転の普通乗用自動車(山形五六 ハ―八三二七)

5 態様 被害車は、加害車の前を共に山形方面から仙台方面に向け進行中、加害車より後方から追突され、その結果前方右方向に押し出され、対向車線路肩に停車中の他車両に衝突した。

二  責任原因

1 被告丹呉は、前記事故発生場所を進行中、折から風雪が吹き、路面も凍結して滑り易い状態にあつたのであるから、自車前車との車間距離を十分とるなどして進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、原告車両が停止したにも拘らず適切な制動措置を講じえないまま自車前部を原告車後部に追突させ、更にその反動によつて原告車を対向車線路肩に停車中の他車両に衝突せしめ、もつて本件事故を発生させたもので、民法七〇九条の責任がある。

2 被告真下商事株式会社(以下「被告真下商事」という。)は、加害車の所有者であり、自己のために自動車を運行の用に供していたもので、自賠法三条の責任がある。

3 被告富士火災海上保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)は、昭和六一年一月二〇日被告真下商事との間において、対人極度額一億円の自動車損害賠償責任保険契約(証券番号KV―四七九八五二―一)を締結し、同保険約款六条は、損害賠償請求者が直接被告保険会社に対し、損害賠償の支払を請求することができる旨定めているので、直接原告に対し賠償する責任がある。

三  受傷損害状況

1 原告は本件事故により、加療約一六ケ月(含入院約三ケ月)を要する頸椎捻挫並びに腰椎捻挫の各傷害を受けた。

2 損害

原告は、前記受傷により、別紙入通院明細表(表Ⅰ)記載のとおりの入通院加療を余儀なくされ、よつて同損害額明細表(表Ⅱ)記載のとおり合計一六四五万二三二六円の損害を被つた。

四  損害の填補

原告は、その損害につき、被告らから、次のとおり合計五六一万四七四八円の損害の填補を受けた。

1 治療費につき、計二三八万七九六〇円

(内訳)

2 休業損害につき 計三二万六七八八円

(内訳)

(注) 備考欄中※印は被告保険会社から、その他は被告真下商事から各受領した。

五 弁護士費用

被告らは、三、2記載の損害金から、四記載の填補分を控除した残金一〇八三万七五七八円を支払わないので、原告は止むなく本年一〇月一日原告訴訟代理人弁護士に損害賠償請求訴訟の提起を依頼し、着手金として五〇万円を支払つたが、右弁護士費用は原告の権利保護のため本件事故と相当因果関係に立つ損害である。

六 よつて、原告は被告らに対し、本件交通事故による損害賠償金残金一〇八三万七五七八円に弁護士費用五〇万円を加えた一一三三万七五七八円及びこれに対する不法行為発生日である昭和六一年三月二〇日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第二被告全員の答弁

(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨

(請求の原因に対する答弁及び弁済の主張)

一  請求の原因一は認める。

二  同二の1中追突の事実は認め、その余は争う。

同二の2は認める。

三  同三の1中頸椎捻挫及び腰椎捻挫の各傷害を受けたことは不知、加療期間については否認する。

同三の2中別表入通院明細表(表・Ⅰ)のうち、入院については1、2を、通院については1、2、3、4を認め、別表損害額明細表(表・Ⅱ)のうち、〔第一〕の1の治療費については、1、2、3、4中一四四万七〇八〇円の事実は認め、その余は不知。

四  同四の1は認める。ただし、治療費内訳のうち沼沢整骨院分については被告側は二万二七〇〇円を支払つている。

同四の2は認める。ただし、休業損害内訳中3の二〇万円の支払月日は昭和六一年五月二五日ではなく、同年六月六日である。原告主張の支払のほかに被告真下商事は原告に対し六七万一九七〇円を支払つている。

ちなみに、被告真下商事及び同丹呉保夫は、被告ら自身若しくは保険会社を介して左記のとおり三八九万八七五八円を支払つている。そして、原告はその主張の金額のほか、六七万一九七〇円を右被告らから損害の填補として受取つている。

1 昭和六一年三月二五日 一〇〇、〇〇〇円

2 同年四月三〇日 三〇〇、〇〇〇円

3 同年四月三〇日 一〇〇、〇〇〇円

4 同年五月七日 二九、九七〇円

5 同年五月七日 一〇〇、〇〇〇円

6 同年五月九日 五九、〇〇〇円

7 同年五月九日 七〇、〇〇〇円

8 同年五月一四日 二〇〇、〇〇〇円

9 同年五月二三日 一〇〇、〇〇〇円

10 同年六月六日 二〇〇、〇〇〇円

11 同年六月一九日 一〇〇、〇〇〇円

12 同年六月一九日 五〇〇、〇〇〇円

13 同年七月九日 四〇〇、〇〇〇円

14 同年七月二二日 一三〇、九五八円

15 同年八月七日 五三四、二二五円

16 同年八月一八日 一三、〇〇〇円

17 同年九月五日 九六一、六〇五円

合計 三、八九八、七五八円

五  同五は争う。

六  同六は争う。

理由

一  請求原因一の本件交通事故発生の事実は当事者間に争いがない。

二  その傷病が本件交通事故に起因するとの点は争いがあるが、原告が別表入通院明細表(表Ⅰ)の入院1、2、通院1乃至4をしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一三号証の一、二、乙第一、二号証によると、同表(表Ⅰ)の入院1及び通院3(右は角田整形外科病院)並びに同入院2及び通院4(右は仙台赤十字病院)時の診断名が、いずれも、頸椎捻挫、腰椎捻挫であつたことが認められる。

三  そこで、原告に右以後の治療がなされた点はさて措いて、原告の右頸椎捻挫及び腰椎捻挫が本件交通事故に起因するか否かを判断するに、当裁判所は鑑定人鈴木庸夫(山形大学医学部教授、法医学講座担当)の鑑定(右鑑定の資料とされたものは、本件訴訟における―本件被告丹呉保夫に対する業務上過失傷害被告事件の略式命令手続記録を含む―成立に争いのない書証並びに本件訴訟における当裁判所の証人及び当事者本人調書である。)を採用し、本件交通事故との法律上の因果関係を否定すべきものと考える。その要点を摘記するに、成立に争いのない甲第六乃至第八号証、第九号証の一、二、第一〇、第一二号証に経験則を加えると、本件各車両間の衝突(第一は被告丹呉車の原告車への追突、第二はこれに伴う原告車の対向車線に停止中の車両への正面衝突)は、その各衝突の瞬間の相対速度がたかだか時速一〇キロメートルと考えられ、かような衝突の衝撃によつて医学上最も発症し易いとされている乗員の頸椎捻挫でさえ考えられず(発症可能相対速度の最下限は、乗用車間の衝突では時速一五キロメートルである。)、この点から、頸椎椎間板ヘルニアはもちろん腰椎捻挫の発症も否定すべきであり、成立に争いのない乙第三、第四号証によると、仙台赤十字病院において昭和六一年六月五日原告に第四、第五頸椎間板にヘルニアのあることを発見したが、主治医もこれが本件交通事故に起因すると断定できないものであり、前記鑑定人の鑑定の結果では、右症状は本件交通事故発生以前に存在したと考えられるとのことであり、この見解を肯定すべき点にある。

原告が本件人身事故発生の立証として提出する前掲甲第一三号証の一、二、乙第一乃至第四号証等の医師の診断書、診療録は、弁論の全趣旨に照らし本件交通事故発生の具体的状況を知悉しない者の診断であり、かつ原告の症状の存在のみからこれの原因を確定することはできないから、因果関係存在の証拠として採用することはできない。

四  してみると、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮村素之)

入、通院明細表(表―Ⅰ)

損害額明細表(表―Ⅱ)

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